


連日30度を越える猛暑。取材があったこの日も、神奈川県の気温は32度を記録した。体育館の中は、立っているだけで汗が噴き出てくるような熱気。しかし、コートの上では、そんな暑さを吹き飛ばす選手たちの明るい声が響き渡っていた。
鶴嶺高校はここ数年、急速に力をつけてきたチームの一つだ。関東大会に3年連続で出場。さらに07、09年の春高予選で3位、08年の県新人大会で3位と、コンスタントな成績を残している。だが、神奈川県には大和南、川崎橘の2強が立ちはだかる。鶴嶺はこれまで、あと一歩のところで全国大会出場を逃してきた。
状況を打破するために応募したのが今回のコチキャラだった。松島斉監督は言う。
「鶴嶺は神奈川県による運動部活動活性化事業の指定を受けており、強いチームにすること、地域との交流などを目標に掲げています。コチキャラなら子どもたちの刺激にもなるし、全国大会に出場すれば学校の活性化にもつながる。そう思い、応募を決意しました」
午前9時。バレーボールウエアに身を包んだヨーコ ゼッターランドコーチが、体育館に入ってきた。元アメリカ代表のセッターとして、92年バルセロナ五輪で銅メダルを獲得。引退後はスポーツキャスターをはじめ、あらゆる分野で活躍する知性派コーチだ。その全身から溢れるオーラに、空気がピリッと引き締まった。
そばで練習を眺めていたヨーココーチが、選手に歩み寄って細かく指導を施す。実は6月のインターハイ予選が終わったあと、ヨーココーチは松島監督に練習メニューを伝えていた。
「個人の技術として、ぜひこれだけはやってほしいという練習メニューを提案させていただきました。なぜそういうメニューを組んだかという理由もお伝えして。基本的なパスであったり足の運びであったり、1時間ちょっとしか練習が取れないときでも効果は望めると思います」

この日は地元の中学生が、胸を借りるために練習に参加していた。空気が張り詰めたのは、その中学生を相手にした練習試合の1セット目が終わったあとだ。「もっと全力でやらないと、中学生のためにもならないよ」。輪になった選手を前に、ヨーココーチの声が響いた。
スコアこそ大差で取ったものの、プレーにメリハリがなかった。相手が中学生だったことで、緩慢なムードのまま試合に入っていた。ヨーココーチはそんな選手の変化を見逃さない。
「中学生に教えるときは教える、でも、自分たちが試合をするときはそのためのペース作りをしなければいけない。鶴嶺は強いチームからセットを取ることもできるけど、関東大会にも行けないくらいの段階で負けたこともある。その落差をもっと小さくすることが大切です。格下との試合は絶対に落とさない。そうでなければ、上位に勝つこともできない。徹底して気持を切り替えるという、いい意味でのクセをつけなければいけません」
ヨーココーチの言葉で、選手の表情が変わった。2セット目は25−2の大勝。その後もセットの合間にはレシーブのフォーメーションなど、細かいチェックが入った。さらに休憩の合間には、控え選手に歩み寄って丁寧にアドバイスを送る。こうした心配りが、ヨーココーチが信頼される理由だ。
要求はけっして低くない。しかし、それも2強に勝って春高に出場するため。
「一つの練習に対して、決められたことは徹底して守る。あとは練習をする上での意識です。このために必要だからこの練習をやるんだということを、毎球毎球意識すること。簡単なことではありませんが、それを頑張ってやっていかなければいけません」
勝つことの難しさと喜びを知るヨーココーチの言葉は、その一つひとつに重みがある。鶴嶺のアツい夏はまだまだ続く。
選手たちからのひと言
粘りのあるバレーで2強を倒したい
伊藤沙実 2年・レフト
鶴嶺は一人一人に向上心があって、できないことも改善できるように徹底して取り組んでいます。個人的な目標は、エースとしてどうやったら決まるかを考えて、もっと決定率を上げること。チームとしては課題であるレシーブとブロックを強化して、粘りのあるバレーで2強を倒したい。
粘りのあるバレーをしていきたい
久我谷木乃加 2年・レフト
ヨーコさんはいろいろな練習方法を教えてくださるので、いろんな面で自分がうまくなれた気がします。ヒザをコートに着かずにレシーブすることを学びました。チームは高さがないので、去年と同じようにレシーブとつなぎを徹底して、粘りのあるバレーをしていきたいと思います
どんな相手にも通用するような攻撃を
川又千南 2年・センター
ヨーコさんが来て、センターが中心になって頑張らなければいけないと感じました。ヨーコさんは細かいことまできちっと教えてくれます。最後まで諦めない気持と、相手より勝ちたい気持が大切。新しいブロードを完成させて、どんな相手にも通用するような攻撃を作っていきたい。
ラリーになっても絶対にボールを落とさない
安藤実那 2年・リベロ
ヨーコさんは口調や言うことは優しいけど、その中にちゃんと意味が込められているので聞いていてわかりやすい。レギュラーが全員そろって自己ベストが出せたら、大和南や市立橘にも負けない。ラリーになっても絶対にボールを落とさないように、全員で練習して頑張っていきます。
アタッカーが打ちやすいトスを
高野真実 2年・セッター
トスを上げるときのフォームや相手をよく見てゲームをするということを学びました。ヨーコさんは最後まで根気強く教えてくれる人です。自分は副キャプテンなので、みんなのサポートをしながらチームを盛り上げたい。アタッカーが打ちやすいトスを上げられるように頑張ります。
バレーが好きな気持ちは負けたくない
中村遥夏 1年・センター
一つひとつのプレーの大切さを改めて実感しました。ヨーコさんが来てからみんなが気付いたことをはっきり言い合えるようになりました。勝つことに対する執念と、バレーが好きな気持ちは負けたくない。まずはセンターとしての意識を持って、ミスのない選手になって春高予選に挑みたい。
1本1本大切にしていくことを学びました
江川舞 1年・レフト
今まではレシーブが雑でしたが、1本1本大切にしていくことを学びました。ヨーコさんはすごい人です。自分がセンターでプレーをしていたときに、ブロックからの切り替えしが遅かったことを指摘してもらったのが印象に残っています。負けないように頑張って春高に出場したい。
1本1本に対する気持ちが変わりました
足立沙也夏 1年・ライト
1本1本に対する気持ちが変わりました。今までなら諦めていたボールも、ヨーコさんが熱く教えてくれたことで自分も精神的に変われました。ヨーコさんは気付いたことをすぐに言ってくれるし、指導がとてもわかりやすい。一戦一戦、目の前にある目標をクリアして全国に行きたい。


